Placebo & Nocebo

変形性膝関節症への関節鏡下デブリドマンはプラセボ効果しかない  (Medical Tribune 2001.5.10より )              

〔サンフランシスコ〕 当地で開かれた米国整形外科医学会(AAOS)の年次集会で,ベイラー大学医療センター(テキサス州ヒューストン)整形外科のBruce Moseley教授は,変形性膝関節症(膝OA)の患者に関節鏡下デブリドマンや関節内洗浄を行っても,2 年後の予後はプラセボと差がないとする研究結果を発表した。

同研究では膝関節痛がある患者180例に、関節鏡下デブリドマン、関節鏡下膝関節内洗浄、器械挿入または軟骨切除をしない模擬関節鏡下小切開手術が行われた。3群に無作為に割り付けられた被験者は全員がインフォームドコンセントに署名し、同じ外科医の手術を受けた。

同意の手続きで擬似(sham)手術のみを受ける可能性があることを実際に説明した結果、研究参加基準に合致した被験者324例のうち、44%は参加を断った。研究期間中は一貫してどの手術を受けるか被験者にわからないようにした。

2年間の追跡期間で、3群全てで疼痛および膝関節機能の中等度の改善を報告したが、デブリドマン群も関節内洗浄群も、プラセボ群より成績が良いわけではなかった。追跡期間のある時期において、擬似手術を受けた患者の転帰はデブリドマン群より良好であったと報告された。

関節鏡下膝関節手術によりほとんどの患者の疼痛が軽減することが過去の臨床試験で明らかにされたが、実際の手術と擬似手術の比較はされていない。米国では、年間65万例以上の関節鏡下のデブリドマンや洗浄処置が行われているが、その多くは関節症患者で、費用は1回約5千ドルである。

「本研究は、手術方針に重要な関わりを持つ」と同博士は話す。「膨大な利益をもたらす産業を後押しする推進力が全てプラセボ効果であることが判った。医療産業は、純粋に主観症状を軽減する外科処置のプラセボと比較した有効性をテストする方法を考え直す必要がある」

付随論説において、壊死組織の関節鏡下切除が単に関節破壊のエビデンスを除去しているに過ぎず、症状に対する効果はないに等しい、とボストン大学のDavid T. Felson, MDとアイオワ大学(アイオワシティ)のJoseph Buckwalter, MDは示唆する。


疼痛学序説 痛みの意味を考える   Patrick Wall著 横田敏勝訳

椎間板ヘルニア溶解術のプラシーボ対称試験のため、全身麻酔下に特に害のない液を注入したところ、その後の回復率が非常に高かった。


第二次世界大戦前のことだが、かつてヨーロッパでこういう実験が行なわれた。

ある国にブアメードという名の健康な身体に恵まれた死刑囚がいた。この死刑囚はある医師から、医学の進歩のために命を捧げてほしいと持ちかけられた。「人間の全血液量は体重の10%が定説となっているが、我々は10%を上回ると考えているので、ぜひそれを証明したい」というのだ。

彼はその申し出を受け入れ、間もなく実験が開始された。目隠しをされてベッドに横たわった彼は、血液を抜き取るために足の全指先を小さく切開された。足元には容器が用意され、血液が滴り落ちる音が鳴り響く実験室の中で、1時間毎に累積出血量を聞かされた。

やがて実験開始から5時間が経ち、総出血量が体重の10%を越えたと医師が大喜びした時、この死刑囚は死亡していたという。

ところが、この実験、実は血液を抜き取っていなかったのだ。彼にはただの水滴の音を聞かせ、体内の血液が失われていると思い込ませただけだったのである。これを「プラシーボ」に対して「ノーシーボ効果」という。

人間のこころは不思議だ。治ると信じることで「プラシーボ」が現れるように、治らないと信じることで「ノーシーボ」という現象が生まれる。

現代の医療はどうなんだろう?心の問題を軽視したため、多くの「ノーシーボ効果」を生み出してないだろうか?検査、検査で疲れている患者に、どこどこが悪い、と権威を持った医者に言われると、たいていの人は悪い所がなくても、「ノーシーボ効果」という病気を生み出してしまわないだろうか?やはり人間の心とは不思議だ。


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思い込むとやけどする

ニューヨークのコロンビア大学医学部のハーバート・スピーゲルが実験したことだ。彼はイマジネーションを利用する実験で、米国陸軍のある伍長を被験者にした。彼は、この伍長に催眠術をかけて催眠状態にしたうえで、その額にアイロンで触れる、と宣言した。しかし、実際には、アイロンのかわりに鉛筆の先端で、この伍長の額に触れただけだった。

その瞬間、伍長は、「熱い!」と叫んだ。そして、その額には、みるみるうちに火ぶくれができ、かさぶたができた。数日後にそのかさぶたは取れ、やけどは治った。この実験は、その後四回くり返され、いつもまったく同じ結果が得られた。

さて、五度目の実験の時には、状況はやや違っていた。この時には伍長の上官が実験に同席していて、この実験の信頼性を疑うような言葉をいろいろ発していた。被験者に迷いや疑惑を生じさせる状況のもとでおこなわれたこの時の実験では、もはや伍長にやけどの症状が現れることはなかった。

スピーゲルは、健康や病気、また、病気からの回復にはさまざまな要因が影響をおよぼし合うと考えている。生理的、心理的、そして社会的な諸要因が相互に関係をもちながら、わたしたちの内部で働いていると言っているのだ。プラシーボ効果を理解するためには、心と体、そしてその両者の関係を促進したり制限したりする第三の要因としての環境状況を考えにいれる必要がある。そして、これら三者を結びつけ活性化するものとして、著者は、言葉のもつ重要性に着目したいと思う。

「心の潜在力プラシーボ効果」 広瀬弘忠 より

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